くにうみの先見

「田中角栄が生きていたら無料にしていただろう」

田中角栄氏が首相であった高度成長時代は、それでもよかったのです。一刻も早く道路を全国に張り巡らせることで、企業も国民も豊かになったのです。そして、政官業の利権を配分することで田中角栄氏は権力の頂点に立ったのでした。

問題は、明らかに東京一極集中から新しい国土と経済のあり方が必要な21世紀の現在まで、田中角栄氏の遺産が続いていることです。今彼が生きていたらどうするでしょうか。

5年前の2002年の秋、高速道路無料化を中央公論に初めて発表し、さらに『日本列島快走論』という本を出した時に、下河辺淳さんの求めに応じてお目にかかりました。

この方は、田中角栄氏の日本列島改造論の主な書き手の1人であり、2代目の国土次官として戦後の国土作りに辣腕を振るった方でした。私も一度お目にかかりたかった方でした。

下河辺さんはこう言われました。

「角栄さんが生きていれば、君の言う通りに高速道路をタダにするよ」

「あの頃はとにかく早く道路を作らなければいけなかったんだ。税金も通行料金もつぎ込んで作るのが合理的だった。でも、今は、作った道路を人が使えるようにしないといけない」

それから、縄文時代からの日本の道、交通、国土、風土、さらには宗教観までお話しになり、活発な議論になりました。別れ際に下河辺さんは「君の本は私の80歳の誕生日に出たのだね。縁を感じるよ」とおっしゃってくださいました。思いがけない心豊かな経験でした。

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